【一滴の流儀】混合吐出の答えは現場にあり!プロの着眼点とは

「また硬化不良か…」。
モニターに映るエラー表示を前に、頭を抱えていませんか?

主剤と硬化剤の混合比は、カタログスペック通りのはず。
吐出装置の圧力設定も、メーカーの推奨値に合わせている。
それなのに、なぜか硬化ムラや強度不足が断続的に発生し、生産ラインを止めてしまう。

もし、あなたがこのような泥沼にはまっているのなら、その原因は一つです。
それは、あなたが「静的なカタログスペック」だけを信じ、「生きた現場の変化」を見過ごしていることにあります。

こんにちは。
液体の声を聞く、流体制御の翻訳家こと、高崎 潤です。
これまで100以上の製造ライン立ち上げに携わり、多くの企業で液体にまつわる課題解決をお手伝いしてきました。

この記事では、単なる机上の空論ではない、私が数々の失敗から学んだ「現場で本当に見るべきポイント」をお伝えします。
読み終える頃には、あなたの混合吐出に関する漠然とした不安は確信に変わり、課題解決に向けた「次の一手」が明確になっているはずです。

なぜあなたの混合吐出は安定しないのか?カタログスペックという「幻想」

多くの真面目な技術者ほど、「カタログスペック」という罠に陥りがちです。
もちろん、カタログに書かれた粘度や推奨混合比は、装置選定や初期設定における重要な出発点となります。

しかし、それだけを信じてしまうのは、天気予報だけを見て、傘も持たずに嵐の中に飛び込むようなものです。

私にも、忘れられない失敗があります。
20代の頃、海外の大型案件で高価な導電性ペーストの吐出量を任された時のことです。
図面上の計算は完璧、材料のデータシートも隅々まで読み込み、万全の体制で臨みました。

しかし、結果は惨憺たるもの。
吐出量が全く安定せず、基板1ロット、実に300万円相当を不良にしてしまったのです。

原因は、現地の「温湿度」と「材料のロット差」という、データシートには書かれていない「生きたパラメータ」を軽視したことでした。
この手痛い失敗から、私は学びました。
「理論やカタログスペックは出発点にすぎない。真の最適化は、常に現場の『声』を聞くことから始まる」のだと。

答えは現場にあり!プロが必ず見る「3つの生きたパラメータ」

では、現場の「声」とは一体何でしょうか。
私が混合吐出の現場で、必ず確認するポイントは大きく3つあります。
それは、まるで生き物のように刻一刻と変化する「粘度」「圧力」「時間」の3つのパラメータです。

1. 『粘度の声』を聞く – 温度という変数

あなたは、材料タンクの温度を毎日チェックしていますか?
「室温で管理しているから大丈夫」と思っているとしたら、要注意です。

液体、特に高粘度の樹脂は、温度変化に非常に敏感です。
一般的に、液温が1℃変わるだけで粘度は5〜10%も変化すると言われています。
粘度が変われば、当然、ポンプで送り出す量も変わり、主剤と硬化剤の混合比はあっという間にズレてしまいます。

これは、私が毎朝淹れているハンドドリップコーヒーと全く同じ原理です。
同じ豆、同じ挽き方でも、湯温が数℃違うだけで、抽出されるコーヒーの濃度や味わいは全くの別物になります。
湯温で味が変わるように、液温で混合比は変わるのです。

現場では、室温の変動はもちろん、装置そのものが稼働中に発する熱も、液温に影響を与えます。
朝一番の冷えた状態と、連続稼働で装置が温まった午後とでは、同じ設定でも吐出結果は変わってくるのです。

2. 『圧力の脈』を読む – 供給圧と背圧のバランス

次に、圧力です。
「供給圧は設定通りだから問題ない」と考えている方も多いかもしれません。
しかし、本当に見るべきは、設定された供給圧だけでなく、その先で生まれる「背圧」、つまり抵抗です。

どんなに力強く圧力をかけても、その先に詰まりや抵抗があれば、液体はスムーズに流れてくれません。

これは、私が趣味にしている渓流釣りに似ています。
同じ力で竿を振っても、強い向かい風が吹いていたり、ライン(釣り糸)が水面の流れに取られたりすれば、狙ったポイントへ正確にフライ(毛針)を落とすことはできません。
この風や流れの抵抗こそが、吐出における「背圧」です。

現場では、エアが完全に抜けていなかったり、フィルターが汚れていたり、ノズルの先端が摩耗したりすることで、この背圧は常に変動します。
供給圧のモニターだけを眺めていても、この「脈の乱れ」には気づけないのです。

3. 『時間の流れ』を制する – ポットライフと滞留時間の真実

最後に、時間です。
2液性の材料には、必ず「ポットライフ(可使時間)」が定められています。
しかし、この言葉を「混合してから、この時間までは安定して使える」と誤解しているケースが非常に多いのです。

真実は、主剤と硬化剤が混ざった瞬間から、化学反応(硬化)は始まっています。
ポットライフとは、あくまで「性能が保証される時間」の目安にすぎません。

特に見落とされがちなのが、スタティックミキサー(2液を混ぜ合わせるノズル部分)の中での「滞留時間」です。
例えば、お昼休憩で1時間ラインを止めたとしましょう。
その間、ミキサーの中に残った混合液は、着々と硬化へと向かっています。
休憩後に、最初の数ショットを「捨て打ち」するのはこのためですが、その捨て打ち量が不十分だと、粘度が上がり始めた材料が吐出され、不良の原因となるのです。

あなたのラインのタクトタイム(1製品あたりの生産時間)に対して、ミキサーの長さや容量は本当に適切でしょうか?
時間の流れという視点を持つだけで、これまで見えなかった問題点が見えてくるはずです。

明日からできる!安定吐出への「最初の一歩」

ここまで読んで、「確認項目が多すぎて、何から手をつければいいか分からない」と感じたかもしれません。
ご安心ください。
最初から完璧を目指す必要はありません。

大切なのは、まず「記録」を始めることです。
難しく考える必要はありません。
「吐出日報」として、その日の気温や湿度、材料タンクの表面温度、供給圧の設定値、そして発生した不良の内容などを、毎日簡単にメモするのです。

記録を続けていくと、必ず「ある傾向」が見えてきます。
「雨の日は硬化不良が多いな」「午後の生産分に、吐出量のバラつきが目立つな」といった気づきです。
その気づきこそが、あなたの現場だけの「答え」に繋がるのです。

もし、最初の一歩が重いと感じるなら、まずは温度計を一つ、材料タンクの横に置いてみてください。
そして、朝、昼、夕方の温度を記録する。
その小さな変化が、大きな改善への第一歩です。

まとめ

今回は、混合吐出を安定させるためのプロの着眼点についてお話ししました。

  • カタログスペックは出発点にすぎず、答えは常に現場にある。
  • 見るべきは「粘度・圧力・時間」という3つの生きたパラメータ。
  • 粘度は「温度」で変化する。材料そのものの温度を測ることが重要。
  • 圧力は「背圧(抵抗)」で変化する。ノズルやフィルターの状態を確認する。
  • 時間は「滞留」で変化する。ミキサー内の見えない変化を意識する。
  • 最初の一歩は「記録」から。まずは温度を測ることから始めよう。

結局のところ、液体は正直なんです。
あなたが現場の変化に真摯に耳を傾ければ、必ずその声に応え、安定した一滴を約束してくれます。

そして、答えは、いつも現場にあります。
あなたの挑戦を、心から応援しています。

最終更新日 2025年9月18日 by emilyk